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ソフトバンクの慶大出身選手と記念撮影する上田さん(左)=上田さん提供
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20年目の四国独立リーグ

 野球の独立リーグ「四国アイランドリーグplus(四国ILp)」は2024年、創設から20年の節目を迎えた。

 06年から3シーズン続けて総合優勝を飾ったのが香川オリーブガイナーズだ。今季、アマ野球の指導者を長く務めた上田誠さん(67)がヘッドコーチとして加わった。

 神奈川・慶応高を甲子園に導き、慶応大でもコーチを務めた上田さん。プロ野球12球団でのプレーをめざす選手が集まる独立リーグの舞台は、その目にどう映ったのだろうか。

 「大学に行ったけど、試合で使ってもらえなかったり、人間関係がうまくいかなかったりして中退した子。専門学校を出て、諦めきれずに野球を続けている子。色んな背景で集まった選手たちだけれど、野球に対してはみんな熱心。そういう子たちを見ていると、やっぱり応援してあげなきゃ、って思いますよね」

 香川の球団社長は慶応高時代の教え子。請われて23年秋に球団代表になった。ヘッドコーチも兼務し、ユニホームを着て選手たちと長い時間を過ごした。

 「みんな高校や大学で野球をやってきているのに、意外と基本的なことを知らない。中継プレーで二塁手がカットするのか、遊撃手がカットするのか。春季キャンプで、まず座学から始めました。こういう時はこう動く、という基礎を教え込むためにね」

 もちろん、打撃フォームや変化球の握りなど、個人の技術指導にも当たった。

 「これまで、そういう基礎的なことをきっちり教えてもらう機会がなかったんでしょうね。『慶応ってこういうことも教えてたんですか』など、質問攻めになることもあります」

 四国ILpは各県に1球団ずつあり、試合の遠征は基本的にバスでの日帰りだ。選手の給料は月10万円ほどと、決して恵まれた環境ではない。

 「金銭的には厳しいのかもしれない。でも、社会人チームだと午前中に仕事をして練習は午後になってからというところが多い。クラブチームだと活動は週末や平日でも夜の短い時間に限られる。独立リーグなら、ほぼ毎日、午前9時から午後5時くらいまで練習できる。四国ILは公式戦だけで年間60試合以上あるし、野球に真摯(しんし)に打ち込める場ですよ」

 野球のカテゴリーで言うと、独立リーグはプロ球団だ。それゆえ、アマにはないメリットもある。

 「試合を見に来た12球団のスカウトがグラウンドに下りてきて、アドバイスしてくれるんです。技術指導や『もっとカーブを使ったらどうだ』とかね。それに、ソフトバンクの3軍とはリーグの公式戦として各球団年間8試合が組まれています。けが明けの主力級が出場することもあるから、トップレベルを肌で感じるチャンスがあるんです」

 だが、いつまでも居続けられる場でもないのが独立リーグだ。球団代表として、上田さんは選手契約を結ばないと通告する立場でもある。

 「諦めきれない、ずるずると続けてしまう。そんな選手たちの野球人生に、ピリオドを打ってあげるのも仕事。アマ時代は野球をやめそうな選手を引き留めてきましたから、一八〇度違う仕事です。ただ、芽が出ない選手を早く次のステップに進めるようにするのは、その後の人生にとってはすごく大事なこと。球団代表だけやっていたら違ったんでしょうけれど、コーチとしてグラウンドで一緒に苦労したからね。やっぱり、愛が生まれてくるんです。『最後通告』も、その選手の人生のためだから、つらくはないです」

 NPB球団入りがかなうのはごく一部。大多数は独立リーグから、野球とは関わりのない場所へと飛び立つことになる。

 「来年から、起業に必要な知識や営業職の基礎スキルなど、社会に出たときに役立つ講座を週に1回、選手たちに受けさせる予定です。社会で役立つ事務的な知識は学べるし就職先も紹介するよ、と。こういう仕組みを説明すると、大学の指導者さんも『そんなことをやってくれるんですか』と好意的な反応を示してくれます」

 上田さんは来季も球団に残る。ヘッドコーチはやめて、チーム編成など球団代表としての業務に軸足を移す予定だ。

 「今年は前後期ともに最下位。負け慣れしました(苦笑)。いい選手を取ってきてチームを整えて、優勝しないと。20年も続いてきたこのリーグが、もっともっと盛り上がるように、他球団とも協力してやっていきたいなと思っています」(松沢憲司)

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